石川県中能登町のお墓で、竿石 (さおいし=家名を彫った縦長の石) がわずかに傾いている、目地 (石と石のすき間を埋めた部分) が黒ずんで痩せてきた、灯籠の鉄部から茶色い筋が垂れている。2024年1月の能登半島地震のあとにお参りして、こうした変化に初めて気づいたという方は少なくありません。「このまま様子を見てよいのか」「直すなら何から手を付け、いくらかかるのか」と迷うのは自然なことです。
中能登町は七尾市と羽咋市のあいだにある、能登では数少ない海に面していない町です。潮風による塩害はほとんど問題になりませんが、そのかわり、低地に溜まる湿気、地震の揺れ、冬の凍結融解と雪の重みという3つの要因が重なって、お墓の傷み方を決めています。
この記事では、次の内容を順に整理します。
結論を先に書くと、見た目の症状だけで工事を決めず、「湿気・揺れ・雪」のどれが原因かを現地調査で見極めてから、基礎まで含めた施工範囲を書面で確かめることが、やり直しの少ないリフォームにつながります。
中能登町の墓地立地と3つのリスク
中能登町は2005年に鹿島町・鳥屋町・鹿西町が合併してできた町です。町の中央を、北東から南西へ細長く延びる邑知地溝帯 (おうちちこうたい) の低地が貫き、その両側を眉丈山系と石動山系の丘陵がはさんでいます。墓地も、この地形に沿って大きく2つのタイプに分かれます。
- 低地の水田沿いの墓地 — 集落の共同墓地や寺院墓地に多い。地下水位が高めで、湿気が抜けにくい
- 丘陵の裾や斜面の墓地 — 段状に造成された区画が多い。雨水や雪解け水の通り道になりやすく、盛土部分が動くことがある
この2つの立地に、3つのリスクが重なります。
| リスク | 主な原因 | 出やすい症状 |
|---|---|---|
| 内陸の湿気 | 低地に溜まる朝霧、水田からの水蒸気、木陰 | 目地の黒ずみ・カビ、彫刻の苔、灯籠や金具のサビ |
| 地震動 | 2024年能登半島地震の揺れ、低地や盛土の地盤のゆるみ | 竿石のずれ、区画の不同沈下 (部分ごとに沈む量が違う沈み方)、外柵の段差 |
| 凍結融解+雪荷重 | 石や目地にしみた水の凍結膨張、積雪と落雪の重み | 目地の割れ、石の角欠け・表面剥離、灯籠の笠のずれ |
中能登町では、この3つが単独ではなく連鎖しやすい点に注意が必要です。
たとえば、地震で目地にわずかなすき間ができる → 湿気と雨水がそこから入る → 冬に凍って広がる、という順で、1年目は目立たなかった傷みが2〜3年かけて表面化することがあります。地震直後に「無事だった」と判断したお墓でも、冬を越すたびに点検しておく意味はここにあります。
湿気由来の劣化症状と樹脂系補修材の選び方
湿気の多い低地の墓地で目立つのは、目地の黒ずみやカビ、彫刻文字の溝に入り込んだ苔、灯籠や花立ての鉄部のサビです。見た目の問題に見えますが、目地が痩せると雨水が石の内側や納骨室 (カロート) に回り込みやすくなり、凍結や金具の腐食を早める入口になります。
目地補修材の種類
現在のお墓の目地には、主に樹脂系のシーリング材 (コーキング材) が使われます。石材店によって採用する材料は異なりますが、見積書で材料名を確認するときの手がかりとして、一般的な特徴を整理しておきます。
| 材料系統 | 一般的な特徴 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 変成シリコーン系 | 石材との相性がよく、墓石の目地で広く使われる | 石材用の製品か、周辺の石に油じみが出にくいか |
| シリコーン系 | 耐候性は高いが、成分が石ににじみ出てしみになる例がある | 石材用として使ってよい製品かどうか |
| モルタル (セメント系) | 古いお墓に多い。硬く、揺れで割れやすい | 撤去してから打ち直すか、上から重ねるだけか |
重要なのは材料名そのものより、「古い目地をきちんと撤去してから打ち直すか」です。
劣化した目地の上に新しい材料を薄く重ねるだけでは、湿気の多い環境では早い段階で剥がれることがあります。また、灯籠や金具のサビは、表面を塗り直すだけでなく、ステンレス製部材への交換で再発を抑えられるケースもあります。苔やカビの洗浄は、石を傷めない方法の選び方も含めて別記事 (お墓のクリーニング) で詳しく扱っています。
地震後の沈下・傾き直しと地盤改良の判断基準
2024年1月1日の能登半島地震では、中能登町でも震度6弱が観測されました (気象庁発表)。完全に倒れたお墓ばかりではなく、「少しずれた」「ぐらつく」「区画の一部が沈んだ」という中間的な被害が多く、どこまで直すかの判断に迷いやすいのが特徴です。
工事の範囲は「沈下の原因」で決まる
傾き直しには、大きく分けて3段階あります。
- 据え直し — 墓石を一度外して水平を取り直し、目地を打ち直す。基礎と地盤に問題がない場合
- 基礎の作り直し — 割れた・沈んだコンクリート基礎を撤去し、鉄筋コンクリートで作り直す
- 地盤改良を伴う工事 — 基礎の下の地盤そのものが弱い、またはゆるんだ場合に行う
地盤改良の代表的な方法には、弱い土を掘り取って砕石に入れ替える砕石置換と、地盤に固化材を注入して締め固める薬液注入があります。一般に、区画が狭く掘削できる深さの範囲で弱い層が収まっているなら砕石置換、隣の区画に影響を出さずに深い層を固めたい場合は薬液注入が検討されます。どちらが適するかは、墓地の管理規約で掘削や注入が認められるかにも左右されます。
地盤まで手を入れるべきか判断する目安
- 区画の一方向だけが沈み、外柵の合わせ目に段差ができている
- 据え直しをしたのに、1〜2年で同じ方向に再び傾いた
- 隣の区画や参拝路も同じように沈んでいる
- 低地の墓地で、雨のあとに区画内に水が溜まりやすい
- 斜面の墓地で、区画の下や裏側に空洞・土の流出が見える
これらに当てはまるのに据え直しだけで済ませると、同じ傾きが再発しやすくなります。反対に、竿石だけがずれていて基礎や地盤に異常がないなら、据え直しと目地の打ち直しで十分な場合もあります。見積もりの段階で「なぜその工法なのか」の説明を求めてください。
凍結融解に強い石材と吸水率の目安
部材の交換や建て替えで新しい石を選ぶ場合、北陸では「水を吸いにくい石かどうか」が長持ちを左右します。石が吸った水は冬に凍って膨張し、それを繰り返すことで表面の剥離や細かなひびが進みます。これが凍害 (とうがい) です。
石の水の吸いやすさは「吸水率」で表され、墓石用の花崗岩では、寒冷地向けの目安としておおむね0.2%前後以下の値が挙げられることが多いようです。国産では庵治石 (香川県) や真壁小目石 (茨城県) などが吸水率の低い石として知られていますが、同じ産地名でも採掘場所や等級で値は変わります。
石材名だけで判断せず、その石の試験データ (吸水率・見掛比重など) を見せてもらえるかを確認すると確実です。
中能登町の場合、低地の墓地では地面からの湿気を下段の石が吸い上げやすく、丘陵の墓地では落雪や吹きだまりで特定の面に雪が長く残りやすい、という差があります。全体を高価な石にしなくても、台石や外柵など水と雪に接する部材を優先して吸水率の低い石にする、という配分も一つの考え方です。
雪囲いの3方式と費用の目安
雪囲いは、積雪の重み、屋根や木からの落雪、除雪作業の接触から墓石を守るためのものです。中能登町は能登のなかでは平野部の積雪が比較的少ない年もありますが、丘陵の墓地や木の近くの区画では、重く湿った雪が局所的に溜まることがあります。
| 方式 | 向いている区画 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 支柱+透明屋根置き | 積雪が多い区画、灯籠など壊れやすい部材がある墓 | 数万円台〜 (設置・撤去を業者に頼むと毎年費用が発生) |
| 金網柵 | 落雪や除雪機の飛び石を防ぎたい区画 | 1万円台〜数万円台 (区画の広さで変動) |
| 角囲い (板や専用カバーで竿石を覆う) | 積雪が比較的少ない区画、自分で設置したい場合 | 資材のみなら数千円〜1万円台 |
上の金額は一般的な相場感で、区画の広さ、資材の種類、設置・撤去の有無によって大きく変わります。業者に依頼する場合は出張費が別になることが多いため、見積もりでは「設置のみか、春の撤去と保管まで含むか」「出張費が含まれているか」を分けて確認してください。
雪囲いに使える資材や設置方法は、墓地の規約で決まっていることがあります。設置前に管理者へ確認しておくと安心です。
業者選びと出張費の確認ポイント
中能登町は町の規模に対して石材店の数が多いとは言えず、七尾市・羽咋市・金沢市方面から出張してもらうケースも想定しておく必要があります。地震後はお墓の修理依頼が集中し、着工まで時間がかかる傾向も見られました。
見積もりで確認したいこと
- 出張費・運搬費の扱い — 現地調査の段階から費用が発生するか、工事費に含まれるか
- 施工範囲 — 墓石本体だけか、基礎・外柵・地盤改良まで含むか
- 材料名 — 目地材の種類、交換する石材名と吸水率のデータ
- 追加費用が出る条件 — 掘ってみて地盤が想定より悪かった場合の扱い
- 保証 — 年数、対象範囲、地震など災害が対象外かどうか
- 工期 — 積雪期に着工できない場合の扱い
- 施工写真 — 基礎など完成後に見えなくなる部分の記録を残してもらえるか
災害のあとは、墓地での声かけや訪問営業が増える傾向があります。その場で契約せず、見積書を持ち帰って家族と比べてから決めてください。判断に迷うときは、消費者ホットライン (188) や中能登町・石川県の消費生活相談窓口に相談できます。業者選びの注意点は、トラブル予防の別記事でも詳しく扱っています。
墓地の管理者への確認
中能登町には寺院墓地、集落の共同墓地、民営の霊園が混在しています。共同墓地では区長や管理組合が窓口になっていることも多く、工事できる業者の指定や事前届け出が必要な場合があります。石材店と契約する前に確認しておくと、二度手間を避けられます。
補助金・支援制度と、修理以外の選択肢
能登半島地震で被害を受けたお墓の修理に使える支援制度は、自治体や時期によって有無・内容が異なります。本記事では金額を示しません。最新の情報は中能登町役場の担当窓口と石川県の公式発表で確認してください。り災証明書が必要になる制度もあるため、被害の写真は修理前に残しておくことをおすすめします。
跡継ぎがいない、今後お参りが難しいといった事情がある場合は、大きな修理をする前に、永代供養への切り替えや墓じまい、あわせて仏壇の整理まで含めて検討すると、二重の出費を避けられることがあります。
まとめ
- 中能登町は内陸の町で、塩害より「低地の湿気・地震の揺れ・凍結融解と雪荷重」の3つが連鎖してお墓を傷めます。
- 目地補修は材料名より「古い目地を撤去してから打ち直すか」が要点。サビる金具はステンレス部材への交換も選択肢です。
- 地震後の傾きは原因で工法が変わります。再発や区画全体の沈下があれば、基礎・地盤改良 (砕石置換・薬液注入) まで検討を。
- 新しい石は吸水率のデータで選び、雪囲いは区画に合う方式を、出張費・撤去費込みの見積もりで比べてください。
- 支援制度の有無は中能登町役場と石川県の公式発表で確認し、契約前に墓地の管理者のルールも押さえておきましょう。




